くりちゃん

 年を取るとどうしたわけか子どもの頃のことを思い出す。この「くりちゃん」というキャラクターの絵本を読んだ記憶がある。写真の本とは少し印象が違っていたように思う。
 私は、家で一人でお留守番をしていたようだ。そんなことは滅多にないことだった。大体いつも母がいたし、別のところに伯母もいたのに、なぜかその時はひとりだった。
 特にすることもなく、適当に遊んでいたがそのうちに「くりちゃん」の本にあたった。絵本が好きだったということもなく、暇つぶしに読み始めたのだと思う。
 そのうちに外には雨が降り始めたようで、部屋の中は段々と暗くなっていたようだけれど、本に集中していて、それに気が付いたのは、本を読み終えた時だったので、電気も点けてはいなかった。
 そのくりちゃんの本の中には、部屋の中で遊ぶくりちゃんの様子が描かれていた。くりちゃんもお留守番なのか一人で遊んでいた。夢中で積み木で遊んでいる様子だったと思う。夢中で遊んでいるうちにくりちゃん自身が積み木になってしまい、帰って来たお母さんが見つけられなかったような気がする。それがくりちゃんにとってはとても悲しくて、くりちゃんは泣いてしまう。そこで目が覚めて、お母さんと再会できたという感じのお話だったと思う。
 「お母さんがくりちゃんを見つけられない」ということが、驚きだった。そんなことがあるのかと恐怖にも近い不安を覚えた。そして、本を読み終えた時に部屋が暗くなっていて、自分がひとりボッチなのだと気が付き、ひどく不安に感じた。お母さんはいない。買い物に行っている。帰って来た時に自分のことを見つけられなかったらどうしようかと、怖ろしくなった。
 そのすぐ後に、母は無事に帰って来た。
 自分の状態と重なり合うようなお話だった。たぶん幼稚園にいく前の話だと思う。妹は母が連れて行ったのだと思うが記憶にない。
 その後しばらく絵本が読めなかったように思う。60年経っても、このことを思い出すから、印象の強い出来事だったのだと思う。
 「三つ子の魂百まで」とは言うけれども、記憶として思い出せないものもたくさんあるのだと思うし、思い違いをしていることもあると思う。そんな記憶の上に今の自分がいるのだと思うと、おとなになって『修正』できるものは修正した方がいいのかも知れない。
 イヤな記憶をすべて忘れて、自分は幸せに、愛されて生きて来たという記憶だけになったら、幸せに死ねるのかも知れないが、そんな都合のよいことはなく、きっと人にした酷いことは忘れることはできず、「いつか仕返しされる」と疑心暗鬼になって、恐怖と不安の中を生きることになるのだと思う。

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