空蝉

源氏物語の中に『空蝉』の帖がある。光源氏が訪ねて来るが、人妻であることで、小袿を脱ぎ捨てて逃げた。その小袿が『抜け殻』として、『空蝉』というらしい。現代的な感覚だと「不倫」の一言で、終わるのかも知れないけれど、好きな人と好きなように恋愛をして結婚ができる時代でもなく、食べていくために、老人と結婚させられた女性の悲哀を感じる。光源氏にとっては初めての失恋のようなものだったらしいので、こんな関係は当たり前だったのだろうか。
いずれにしても、女性の悲惨な状態というのは、現代の比ではないのだろう。
お散歩をしていると今は「セミの抜け殻」がたくさんあった。『抜け殻』というと、どうしても悲恋なイメージが強い。この二つの抜け殻を見ていると「仲のいい抜け殻」に見える。人は勝手に物語りをつくりたい。でも、実際は先の抜け殻ができた後に、その上につかまって脱皮したのだろう。二匹のセミが出会うことはなかったのだろう。でも、これから出会うのかも知れない。
『抜け殻』を、悲しみや心身の喪失と受け止めるよりも、『脱皮』して、新しい人生を生きる象徴として受け止めたい。

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