「女らしさ」の呪縛

 学生の頃、この「ヌバ族」の写真集を先輩が見せてくれた時に、全身に衝撃が走った。そして、このヌバ族の女性と結婚したいと思って、青年海外協力隊に志願することを決心して、何とかアフリカへ行く方法を画策した。
 漆黒の肌の色と戦士というそれまでの日本人としての「女らしさ」の価値観が打ち砕かれた。そして、細く長くまっすぐな脚に、鍛え上げられた肉体に魅了された。
 この美しい女性たちは、世界一だと思った。
 しかし、所詮不純な動機だから、青年海外協力隊は帰国したら、キャリアとしては認められず、定職にはつけないという話を聞いて、断念した。その後、漆芸を選択したのはこの肌の色に惹かれていたからだろうか。

 しかし、その時に「女らしさとは何か?」「女の美しさとは何か?」という疑問と危機に直面していることに気が付いた。ピカソたちもアフリカへ行き、「美とは何か?」ということを追求していたと聞く。私たちが当たり前に感じている「美」は所詮それまでの自分が見たり聞いたりして来た、狭く浅く薄っぺらいものでしかないことを知らしめられた。
 特に「見た目の美しさ」など、本当に水面に浮かぶ木の葉のように揺らいでいる。その美しさに振り回されて、私たちの人生はアップダウンを繰り返す。
 そして、同級生の女の子たちから、「男はいいよね。制約が少なくて、女は『あれはダメ。これはダメのダメダメ尽くしよ』」と言われた。いやいや、男だって「男らしくない」とプレッシャーの掛け過ぎでしょ、と思うことが多いが、彼女たちの話を聞いていると、女は男よりも制約が多くて本当に大変だと思ったし、当時は男でよかったと正直思った。

 女の子を縛っている呪いがあるとしたら、こうした「女はこうあるべき」というような価値観だろう。そして、それから逃れるのは至難の業だと思う。親や周りの価値観、ひいては日本人の価値観を全部変えることなどほとんど無理に思える。
 でも、変えることのできるものがあるとしたら、自分自身の価値観だろう。
 あなたを苦しめている「こうあるべき」という思いを捨ててみませんか。簡単ではないけれど、このヌバ族の女性を美しいと思う日本人もいるのだと考えてみてください。笑えませんか?
 そう言えば当時、「アフリカに行きたい」と妹に話したら、すぐに「鼻輪をつけている女の人を連れて来ないでね」と言われた。妹には、私の下心は丸見えだったのだと思った。

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