痘痕も靨

ラウルクルーゼはテロメアが短く、失敗作のクローンだと自分のことを言っている。
テロメアが普通でも、人の寿命は120年と定められたと聖書にはある。それは「永遠」という完成品からみるとすべての人は失敗作であると定められたのと同じことだろう。
現代、コンピューターは生成AIの時代になった。人間にはできない最高品質のものを大量に生産するだろう。人間が何十年も訓練し、努力しても手に入れることさえできないような、絵画や彫刻や小説や映像のような人が競い合って、生み出して来たものをはるかに凌駕するレベルに到達するだろう。クルーゼが言った、「これが人の夢! 人の望み! 人の業! 他者より強く、他者より先へ、他者より上へ! 競い、妬み、憎んで、その身を食い合う!」世界が終わろうとしている。人が絶対に勝てないAIによって、人の世は終わる。
「善悪の木の実の毒」は、その毒によって生み出された人の欲望をすべて叶えてくれるAIによって見事に打ち砕かれる。そんな時代が終わった時、人の生きる目的は残っているのだろうか。
完成品が溢れる世界では、痘痕(エラー)こそが、人の美しさそのものであり、個性そのものなのだと気づくことになると思う。
天国は完成された理想的な世界でも、優秀で有能でなければ入れないようなところでもなく、その真逆の不完全な失敗作の『罪びと』ばかりが、助け合い、認め合い、愛し合っている世界なのだろう。「自分は優れている」と思っている人たちには、気持ちの悪い、吐き気を催すような、絶対に行きたくないところだろう。

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